『元禄期 軽口本集〜近世笑話集(上)』 武藤禎夫 校注

登場人物と話の傾向を探るべく、一覧表にしてみました。(表の色は気まぐれです)


注)登場人物の数え方は、噺の落ちに関わる者のみ
注2)カウントしやすいよう一字で言い表しているが、曖昧な噺もある
注3)人を現す一字は、抜けた男か粗相者か判然としない場合は「馬鹿者」の「馬」と表記した
注4)内容を現す一字において、失敗談(失)と馬鹿者の話(馬)の違いは、成功者(見本、教示)の有無

当世手打笑』(延宝9・1681年、江戸中期)、京都、素人同好者
第一
内容 場所 メモ











1 ぬけ男二人★ 真似て失敗 祇園町 羽織=黒犬、シュール
2 与作(侍の従者) 教えられて失敗 口上を覚える
3 田舎者とスリ
勘違い 三条の辻 摺箔屋
4 抜けた入り婿 教えられて失敗 在郷(田舎) 大木に登った人を下ろす
5 無筆者 言い訳 銀(かね)の受け取り
6 うつけ者★ 教えられて失敗 賀茂の競馬 餅を食べ切る
7 抜けた男 教えられて失敗 紺屋 あられ=釈迦の鼻くそ
8 粗相者 羨んで真似て失敗 東福寺 秀句のまね
9 手相見と客★ 言い訳 誓願寺 客を女と見間違う
10 抜けた男 言葉を知らない 道場(修行場) べらぼうな坊主
11 気取った男 変った物言い オヤジが破損した
12 粗相な侍★ 強がりの言い訳 鷹狩り 縁柱に脚絆を履かす
13 抜けた男 勘違い 男の子か女の子か
・抜けた男、粗相者系の者=10、田舎者=1、無筆者=1、侍=1、スリ=1、手相見=1
・内容傾向 失敗談(失)=6、勘違いや無知系の話(馬)=4、言い訳(言)=3
第二
内容 場所 メモ
1 田舎者 勘違い 三条の堤 三貫飴=一文





2 山家の者 無知 市(いち) 蚊帳を知らない
3 うつけたる男 妙な行動 コタツの買い物
4 吝き者★ 言い訳 魚売りの稽古じゃ
5 魚くひ坊主 言い訳 鮒なます
6 粗相者 変った物言い 御公家
7 山家の者★ 勘違い、無知 毛の生えた饅頭
8 小者★ 勘違い 賀茂の芝原 赤犬。寄合酒の一部
9 抜けた男 教えられて失敗 病気見舞い
10 田舎者 無知 よろずうつし物、看板
11 在郷出の男★ 勘違い、粗相、うつけ 火事の知らせ
12 関東者と茶店婆★ すれ違う言葉 愛宕詣り
13 粗相者 変った物言い 祝いの席 法体
14 抜けたる男 勘違い 掛け硯が盗まれる
15 小物★ 無知 目の前で「物申」
16 下部ども 意見の相違 食べて寝る生活が夢
17 物知り顔する男 勘違い 論語
18 巾着切りの女★ そんな馬鹿な お産 子どももスリ
・抜けた男、粗相者系の者=7、田舎者=6、ケチ=1、坊主=1、貧乏=1、スリ=1、
関東者=1、茶店婆=1
・勘違いや無知系の話(馬)=12、言い訳(言)=2、すれ違い(不)=2、幻想(幻)=1、
失敗談(失)=1  傾向⇒愚者の話が増えた。
第三
内容 場所 メモ
1 粗相なる坊主 言い訳 鯉の刺身が一番






2 抜けたる男 勘違い 数寄(茶店) (脇差を)抜け
3 うつけ者 意見の相違 歯を抜く=怒る
4 粗相なる医者 誤診 鯉と“こしょう”はダメ
5 粗相者 聞き違い(勘違い) 端傾城=下級遊女
6 堺の者★ 田舎者の逆襲 御節会 生き鯛を知らぬくせに
7 粗相者 勘違い 大仏参詣 太箸=太鼓のバチ
8 ある者 間違った言葉遣い? おつぼね
9 文盲が法体する 勘違い 八五郎坊主の一部
10 粗相なる侍 無知 鷹野 蜂、小姓の歯くそ
11 菜や人参を売る者 無知 五条、万日廻向 飴、しょうの笛、きんぴら
12 物いまひする坊主 小僧が台無しにする 大晦日の夜 縁かつぎ坊主
13 息子 下ネタ お灸 母親のあそこが臭い
14 欲深き若衆 すれ違い 床入り 兄分=念者
15 泣く女 性交ネタ 親の寝る間に子が来る
16 木戸番 職業病 道頓堀 櫓で火事を見る
17 ある者 酔っ払い 丸山→祇園 乞食に話しかける
18 大上戸 呑めるよう言い訳 親類寄合い 飲酒を止めさす工作
19 ある者 言い間違い 鳥が馬糞する
20 唐様を習ふ人 字が読めない 途中から落丁か?
・抜けた男、粗相者系の者=8、酔っ払い=2、息子、男=2、坊主=2、女=1、若衆=1、
医者=1、侍=1、田舎者=1、無筆者=1
・勘違いや無知系の話(馬)=11、下ネタや床系=3、言い訳=2、すれ違いネタ(不)=2、
上手いこと言った(適)=3 
・傾向⇒登場人物は多種に及ぶも、相変わらず愚者の話が多い。失敗談が消えた。下ネタ導入。
第四
内容 場所 メモ
1 粗相者 勘違い 湯屋(銭湯) 仙洞様=上皇の御所






2 粗相者 間違った言葉遣い 正月前 穂だれ(首)が下がる
3 とひょう者ども 勘違い お公家の長屋 内容不明
4 久三郎 勘違い 井戸もと 落ち(髪)やはないか
5 堅意地なる親仁 屁理屈(言い訳) 一汁=一重の箱に豆腐
6 山水なる者 夫婦の貧乏ネタ 洗濯 一枚しかない着物
7 ある者 迷信を実行 門口 杓子で招かれると早死
8 文盲なる親仁 言い過ぎ? 鬼になりて茶を飲め
9 文盲なる植木屋 自慢話の終にボロ 北野(上京区) 串柿を三串とらせい
10 とひょうなる人 侍の前,親子で粗相 切腹をなさるるは
11 軽口なる侘び人★ 芸が身を救う 障子破れた家 狂歌で紙を手に入れる
12 何者か 警句の駄洒落 落首(らくしゅ)
13 旦那坊主 下ネタ 納豆
14 若衆持つ坊主
性交ネタ DV
15 むさき若衆 ピロートーク 智積院→床 焼餅が好き
16 ある人+粗相者 性交ネタ 昼間 落ちに粗相者を出す
17 金剛院 強情(言い訳) 土器(ちゃわらけ)
18 自堕落坊主 小僧がばらす 烏賊(イカ)なますが好き
19 下男 信じられない買い物 大きな位牌
20 十六七の草鞋取り
十ばかりなる息子

自慰を手伝わす 部屋の片隅 膿んだものを掴まされた
21 ある者と弟 蛇があそこに… 行水 間違って斬らないでくれ
・粗相者系の者(粗、馬)=6、坊主=3、ひょうきん者(剽)=2、貧乏人=2、無筆=2、
若衆=2、男=2、子ども=1、侍=1、親仁=1、金剛院=1
・勘違いや無知系の話(馬)=8、下、床ネタ=6、不明(?)=2、上手いこと言った(適)=2、
言い訳=2、貧乏ネタ=1
・傾向⇒「抜けた男」「田舎者」という表記が無くなったものの、愚者の話は多い。
坊主ネタが増えたが、それ以上に、下ネタが増えた。ネタに窮した感がある。
第五
内容 場所 メモ
1 空言をいふ者 嘘つき 清水の舞台 盲目と桃食う








2 抜けたる男 勘違い 吉峰(西京区) 木の根に目薬
3 抜けたる息子 不吉な物言い 火事見舞い
4 小者 間違った買い物 堀川 鍔(つば)と蓋
5 文盲なる(者) 勘違い 茶室と女郎屋
6 ある侍 うっかり坊主になる 有馬温泉 安椀
7 抜けたる者 真似をして失敗 「つん」=一の札カルタ
8 逃げて行く者 勘違い 黒谷(左京区) 道心を起せよ
9 ひょうきんな息子 女装 松坂こえて、やっこの
10 粗相者 勘違い 手数寄か→たこの手
11 医者 間男でない証明 出すものを出せ
12 座頭二人 何も聞こえません 灯が無いと思い出歯亀
13 粗相なる下女★ 勘違い 死ぬ前にお給金頂戴
・抜けた男、粗相者系の話=7、嘘つき=1、無筆者=1、侍=1、医者=1、盲人=1、
ひょうきん者(剽)=1
・勘違いや無知系の話(馬)=7、下ネタ=3、嘘つきネタ=1、唄ではぐらかす=1、失敗談=1
・傾向⇒愚か者の話は相変わらず多い。下ネタが最後に三つ続いた。
(^▽^)
トータル(※正確ではないので、目安程度に)
1 抜けた男・粗相者系の者=38名 1 勘違いや無知系の話(馬)=42
2 田舎者=8名 2 下、床ネタ=12
3 坊主=6名 3 言い訳=9
4 無筆者=5名 4 失敗談=8
5 侍=4名、男=4名 5 上手いこと言ったネタ=5
7 貧乏人=3名 6 すれ違いネタ=4
8 医者=2名、酔払い=2名、
ひょうきん者=2名、スリ=2名
不明(?)=2
9 ケチ、盲人、嘘つき、手相見、関東者、
茶店婆、金剛院、親仁
8 幻想(ファンタジー)ネタ、貧乏ネタ、
嘘つきネタ、歌ではぐらかす
★京に住む人々が一望できます ★一番人気のあったのは、下ネタかと

 
○「当世手打笑」読後感想

 最後まで読んでしまうと、女郎・盲人ネタが少なかった事に驚く(昔の笑い話はこの手のものが多い)。
田舎者への風当たりは強かったが、第三集以降は、数が少なくなった。
乞食や障害者を取り上げて笑う話も少なかった。
愚者の話が多いのは、今から見ればかなり良心的に見える。

 笑い話につきものなのは、愚か者の話と、下ネタであることがよく分かった。
失敗談は成功者(見本、教示者)が必要なので、意外と希少である。徐々に数を減らした。

 京で発行された為か、侍と坊主を笑いものにしている話がよく目に付く
露の五郎兵衛の本では、侍を笑う話が殆ど無いので対照的。客層にかなりいたのだろうか。
 

○読者層の推察

・文字を読める町人〜侍〜公家階級の男女か
(女が酷い目に遭っている話は意外と少ない。酷い目に遭っているのは若衆)
(侍はコケにする程度が低く、滑稽話が好きな者の中には愛読者がいたのではないか)
(福富草子という絵巻物は、かなり尾篭な話だが、皇子の為に貴族が制作したものだったように思う)

・田舎者の話が減った理由として、読者が意外と多く居た為(親が田舎出身である等)、
方向転換したのではないか。自分の身近にいる人は笑いの対象にはしない。

・坊主が読者になることは、全く想定されていない。無筆者、乞食、盲人、貧乏人然り。
但し、医者は微妙である

※下ネタが多くなったのは、ネタに詰まったからか。これで多くの読者を得るようになったように思う。



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